胸腰部椎間板ヘルニア

こんにちは!獣医師の市川です!

8月9月は暑さのほかにも台風の時期として有名ですよね!!

気圧の変化が凄まじいこの時期に注意が必要な疾患に『椎間板ヘルニア』があります。

椎間板ヘルニアは発生場所によってさらに頸部椎間板ヘルニアと胸腰部椎間板ヘルニアなどに分けられますが今回は『胸腰部椎間板ヘルニア』についてご説明します。

胸腰部椎間板ヘルニア

📚概要📚

犬において最も高頻度で発生する神経疾患です。

第1頚椎と第2頚椎を除く頚椎から腰椎の椎間間に存在する椎間板は本来背骨にかかる圧力や衝撃を吸収するクッションの働きを持ちますが、強い衝撃や加齢に伴う変性などを理由に脊髄が通る脊柱管へと椎間板が変位することにより、神経圧迫が生じる疾患を言います。

種類

変位の仕方は大きく2種類あり、①ハンセン1型:椎間板の中心にあるゼラチン様の組織(髄核)が髄核を取り囲むリング状の線維性組織(線維輪)を貫通して逸脱する椎間板逸脱、②ハンセン2型:髄核および線維輪が局所的に伸展する椎間板突出に分けられます。

重度の脊髄損傷が生じると、脊髄に出血性壊死や液状化が生じる進行性脊髄軟化症へ進展していくため経過観察が命取りになる可能性もあります。

犬種

ミニチュア・ダックスフンドで最も発生が多く、ついでウェルシュ・コーギー・ペンブローク、トイ・プードル、フレンチ・ブルドッグの発症が多いです。

📚診断📚

発生状況や犬の歩様による視診(歩行の可否、左右差、意識的に足を動かせるかなど)、神経学的検査(神経機能や脊髄反射の有無など)から病変部の特定を行います。

検査結果に応じて胸腰部椎間板ヘルニアのグレード分類を実施し、治療方針を決めていきます。

Grade1:疼痛のみ

Grade2:後肢運動失調(歩行可能)

Grade3:後肢不全麻痺

Grade4:後肢麻痺(深部痛覚あり)

Grade5:後肢麻痺(深部痛覚なし)

また合わせて血液検査やX線検査などで他の疾患がないかスクリーニング的にチェックすることも大事です。

症状が似ているものに脊髄腫瘍による圧迫などもあるため注意が必要です。

確定診断には全身麻酔下でのMRI検査が必要となります。

左側: 正常な脊髄の構造

右側:椎間板ヘルニア(黒:逸脱した椎間板)によって脊髄(グレー)が圧迫を受けている

📚治療📚

大きく分けて内科療法と外科療法に分けられます。

内科療法は運動制限や疼痛管理、リハビリなどを内服薬を用いて行なっていきます。

また椎間板ヘルニアにより排尿障害が発生する可能性もあるためその場合は膀胱管理による排尿治療も実施します。一般的にGrade3までの椎間板ヘルニアに対する内科療法の治療回復率は80%以上となりますが、Grade4は60%、Grade 5は20%となります。

外科療法は手術により逸脱あるいは突出した椎間板の圧迫除去を行います。

内科療法により改善しない症例や歩けない症例は外科療法が推奨されます。

外科療法にあたって手術の実施タイミングが遅かれ早かれ治療反応は大きく変わらないことが近年わかってきてはいますが、経過観察により石灰化などの2次的変化が生じる割合が増えたり、症状の悪化が生じる可能性、重度の場合は進行性脊髄軟化症が発生するリスクが増えるためなるべく早めの手術の実施が推奨されています。